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「んっ……」

体を包み込む仄かな熱と甘い匂いに俺は頬を寄せ、そこへ唇を押しあてた。

「ふっ、随分積極的だなカケル」

スルリと背を滑る指先に俺はぼんやりと霞の掛かった頭を動かし始める。

「…ラ…イ、もっと」

「そんなに俺様の生気が気に入ったか?」

「ん…」

ライヴィズは低く笑い、胸元に寄せられた俺の顔を一度離す。

「ならばもっとくれてやろう」

薄く目を開いた俺は、伸びてきた指に顎を掬われた。

「ライ…んぅ…」

そして、唇を重ねられる。

甘く優しい愛撫に、覚醒し始めた俺の思考は溶かされる。

「ん…はっ…ぁ…ん…」

「…我が妃は可愛いな」

そっと唇が離れていき、熱を持った俺の頬にライヴィズの手が添えられる。

絡まる視線の中を覗けば、そこに灯る確かな熱情。

ライヴィズから向けられるその想いが嬉しいと心は騒いだ。

「お、れも…」

自然と俺の口は言葉を紡いでいた。

「す…き…」

「漸く認めたか」

ライヴィズはニィと嬉しげに笑みを閃かせ、俺を胸の中に抱き込む。

「うわっ!?」

「カケル、お前は俺様の妃だ。俺様以外の奴をこの肌に触れさせるな」

そう言って、はだけた胸元にライヴィズの指先が置かれ、紅く咲き誇る薔薇の花に添って指が這わされる。

「―っ…ぁ!」

途端、ピリッとした甘い痛みが体の中を走り抜けた。心なしか薔薇が赤みを増した気がする。

「は、…敏感だな。今ので感じたか」

ライヴィズの胸元に咲く薔薇も同じ様に反応を見せ、ライヴィズの吐く吐息には熱が混じった。

ジッと吐息のかかる距離で見つめられ、その力強い瞳がゆるりと閉じられる。

「ら…い…?」

「まだだ。まだ早い」

小さく囁くように呟いたライヴィズの声が右から左へ耳を通り過ぎて行く。

「カケル。今日はまだ部屋で大人しくしていろ」

掠めるように唇を合わせ、ライヴィズは上体を起こした。それにつられるようにして俺も起き上がる。

ベッドを下りたライヴィズは用意してあった服に着替え始め、俺はそれを見てふと溢した。

「…どっか行くのか?」

「執務室だ。お前を迎えに行っていた間の執務が溜まっていてな」

こればっかりは疎かにできねぇ。執務が終わったらたっぷり愛してやる。

「――っ、馬鹿なこと言ってねぇでさっさと行けよ!」

黒色で統一された服を身に纏い、寛げた胸元からは伴侶と繋がる薔薇の花弁が覗く。

「ククッ…まぁ良い。カケル、手を出せ」

黙ってしまった俺に、ライヴィズはそう言って人差し指を向けて来た。口の中で何やら呪文を紡いでいるようだが俺にはさっぱり解らない。

その内ふわりと俺の左手を包むように小さな風が起き、渦を巻く。その渦が段々小さくなり俺の薬指に集束していく。

「なっ、何だよコレ!」

驚く俺とは反対に渦は静かに、最後にキンッと甲高い音を立てて霧散した。

「ゆび、わ…?」

「念の為だ。俺様が居ない間、お前の魔力が暴走しねぇよう制御しておく」

「あ…」

そうだ。昨夜、俺はガラスの置物を。

破片の飛び散ったそこを見やれば、いつの間に誰が片付けたのか、跡形もなく綺麗になっていた。









その指輪は俺様にしか外せねぇ。無理に外そうとすれば指を失うことになるぞと、ライヴィズは恐ろしい事を言い置いて部屋を出て行ってしまった。

「…また勝手に」

俺は指輪の填まった左手を握り締め、怒りに身を震わせた。

しかし、ずっとそうしていても何が起こるわけでもなく、俺はとりあえず無駄に広いベッドから下りた。

ひらりと足の動きに合わせてドレスが揺れ、俺は遅蒔きながら着替えが欲しいと切実に思う。

「はぁ…、本当にもう帰れねぇのかな…」

姿見の前に足を進め、変わってしまった自分の姿を写す。
腰まで伸びる銀の髪をひと房掴み…。

「邪魔だな。どっかにハサミとか」

くるりと室内を見回した拍子に銀の髪が横へと流れ、きらきらと輝いた。

「う〜ん、ねぇなぁ」

髪を切る為にハサミを探していると、外から誰かが扉をノックしてきた。

「妃殿下、リョウレイで御座います。入室しても宜しいでしょうか?」

「リョウレイ?」

俺はさっと一瞬にして微笑みながら実力行使に出た女性を思い出し、一泊妙な間を空けてから応えた。

「…良いよ」

失礼致しますと丁寧なお辞儀をして入ってきたリョウレイを、俺は頬を引き吊らせ迎え入れる。

「また、なのか…」

「妃殿下。本日の御召し物を持って参りました。どうぞこちらに御召し変え下さい」

リョウレイの手の中には黒を基調としながらも、赤い色が良く映えるきらびやかなドレスがおさまっていた。



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